たまこでどろんこ・Ｓｋｙデビュー
まだ独身だったでおすさんが呼びかけた狭山湖周辺でのＭＴＢオフである。トトロの森のモデルと言われた所沢に残る雑木林の中を思いきりＭＴＢで走ろうという趣旨であったように思う。集合はＪＲ武蔵野線の新秋津駅だった。私が住んでいた成増から自走で１時間ちょっとの距離。集合時間の２０分ほど前に着いた私だが、１０時という遅い集合時間にうずうずしていたメンバーがもう５、６人はそろっていた。久しぶりのひでさんの顔も見える。
集まったのはでおすさんのほか、佐藤＠保谷さん、菅谷さん、ひでさん、子連れ狼さん、たかさん、しらなみどん、似せろさん、ＳＫＹさん、そして、はなこＣさんである。
このうち唯一の女性、はなこＣさんが定刻までに現れない。アプローチまでの道で迷っているらしく、あとで合流することを期待して残りの１０名で出発する。目的地の八国山まで、約３キロの舗装路を走るが、頬にはぽつぽつと雨が当たる。どうやら天候は下り坂、誰か雨男がいるらしい。
八国山は思いもよらず深い雑木林に覆われ、その下を気持ちのいいシングルトラックが縦横に走っていた。さっそく自由行動で好きな道を選んで走り出す面々。傾斜は急ではないが障害物があまりないのでスピードを出そうと思えばいくらでも出せる道だ。細い道を選ぶと、いきなり沢に出くわして足を取られそうになる場面もある。雨に濡れた石で滑りそうになるところもあってスリルも楽しめる。１０分も走った頃、坂を登りきったところに何時の間にか皆が集まっていた。誰かが転んで怪我をしたらしい。
それはしらなみどんであった。怪我の箇所は右腕。かなり深い傷のようだ。状況は下り坂でスピードを出しすぎたものと思われた。しらなみどんらしい転び方である。九州でも何度か転んだり車にぶつかったりと災難に好かれた男であった。応急処置はしたものの何人かの観たてによって病院で治療をしたほうがいいという話になる。すぐ近くに大きな病院があるらしく佐藤さんと似せろさんの付き添いでしらなみどんは病院に向かう羽目になった。それを見送ったわれわれ残り部隊も雨が止まないので近くの西武園駅付近で雨宿りをする。
折りよくはなこＣさんと連絡がつき、西武園競輪場の入口付近で彼女の到着を待つ。はなこＣさんは私にとっては伝説の中の人物であった。江戸川オフに参加した彼女は強い向かい風の中をブレーキが車輪に当たっているのにもかかわらず、力強く完走した女傑ということを聞いていた。この話は、きょういちさんから何度も聞かされた話で、その女性に会えるのをでおすさん同様、私が楽しみにしていたのは間違いない。
そんなことを思い浮かべながら待っていると、どうやらきょうは競輪の開催日らしく電車が着くたびに列をなして客が下りてきていた。暇なのでちょっと彼らを観察すると、着ているものといえば紺か灰色の見るからに暗い連中である。新聞や予想紙を見ながら黙々とゲートに向かう彼ら。その多くは帰りも下を見てとぼとぼと家路につくのであろう。遠い昔、親父と行った佐世保競輪場で見たような原風景である。
３０分ほどしてはなこＣさん到着。雨の中を１時間半ほど迷走しての合流であった。きょういちさんから聞いて受けた感じと、実際に見た感じはまるで違う。私が受けた第一印象は、ぽちゃっとした可愛い女性だった。確かにこんな女性が向かい風の中をごんごん走ったら私も言いふらしたくなるだろう。
全員そろったとはいえ、雨は止みそうもなく、誰言うとなく走りオフから宴会オフに切り替えだ。場所は秋津駅近くのでおす亭である。ところがでおす亭に着くころから雨はあがっていくのである。なんとも皮肉なものだ。だが、誰一人として走りを再開しようとは言い出さない。しらなみどんの怪我もあって、御払い反省会が必要な雰囲気だったのだろう。
こうしてどろんこオフはいろいろなことが重なって、私がもっとも得意とするパターンに思いがけず早く突入した。しかも、お昼から．．．。はなこＣさんと私は近くの酒屋まで買出し役である。これ幸いにビールと共にしっかり白波の一升パックも確保する役得もあった。でおすさんの寝ぐらでしばらくは酒とビデオを楽しみ、走れなかった欝憤を紛らわす。ツールド能登のビデオに皆の会話が集中する。それに、でおすさんって、昔はガリガリだったんだ・・・。
酔いがまわるほどに焼酎に切りかえる。いつもはお湯で割る白波だが、昼間から出来あがった私はさっきから生で呑んでいる。他の人はどうだろう、と見ると一人を除いて帰りの自走のために酒は控えてのおいでのようだ。私の前には初対面のＳｋｙさん。走っているときには目立たぬ人であったが、宴会に入ると俄然私の興味の的となった人だ。第一、呑むピッチが早い。しかも私と同じように白波を生で呑んで臆するところがない。私と違うのは呑むほどに目が座ってくるところだ。このＳｋｙさんとのエピソードはこのあと、八丁峠アタック隊始末記の最後の場面にも登場する。
この辺りから私の記憶は薄れていく。あとで話を聞くところによれば、皆が引き上げた後のでおす亭では焼酎に酔いつぶれたまぐろが２匹転んでいたという。しかしこのまぐろ、２時間ほど経ったあとに起き出して自転車にまたがり、家を目指してそれぞれの方向に走り出したそうだ。しかし、一人のまぐろは曲がる方向を間違って２時間ほど府中街道をうろうろした挙句、観念してコンビニで地図を買い、やっと奥さんの待つ家にたどり着いたと聞く。もう一人のまぐろは帰巣本能はしっかりしていて真っ直ぐ成増を目指したらしいが、どのようにして帰りついたかおぼろげな記憶しかないらしい。３０キロほどの車の多い道をかすり傷一つ負わずに辿りついたのは奇跡というしかない、というのはおおげさで、ま、いつものことだ。
あまり走る場面はなかったが、しらなみどんの怪我と、大酒呑みＳｋｙさんとの初めての出会い、そして、でおすさんの青春の一場面を記録する思い出多いオフであった。
