中古レコードはぶっきらぼう（32）

中古レコードはぶっきらぼう（32）

　レコード漁りを中断して３年。生活の基盤は東京から福岡に移っていた。経済的にきつい時期ということもあってレコード屋に足が向かなかったこともあるが、考えてみれば、欲しくてたまらないレコードがほとんどなくなったこともある。私の充足感は約１８００枚のレコードを飽和点としてほぼ満たされているのであろう。
　ただ、個別的に思い入れの強い分野に関してはまだあきらめたわけではない。たとえばシリーズ物で、Vol.２はあるのにVol.１がない Alcohall製作の Good Old Songs などは死ぬまでには是非見つけたい１枚だし、まだ雑誌の広告でしか見たことがない All Hit Songs From 1001 という１０枚組のＬＰも１度は実物を手にしてみたいものである。
　そして属人的に追っかけたいアーティストも数人いる。私にとっては Doris Day、Artie Shaw、Zoot Sims、Tonny Bennett などがそうである。ここで紹介する Helen Forrest は Artie Shaw のバンドシンガーであったことから、いまや私の追っかけボーカリストの一人となった。

　アルバム名：On The Sunny Side Of The Street/Helen Forrest　　Audiofile AD-47
　購入価格：２５００円／神保町・富士レコード
　動機：東京への出張の折、午後から時間があった。こんなとき暇をつぶすなら昔から神保町と決めている。古本屋がたくさんある。新刊本を探すのにも不便はしない。中古レコード屋も数多い。山道具を揃えた店もある。そしてあの秋葉原も近い。この界隈の中古レコード屋では新世界ビル11階の富士レコードにまず足を運ぶことを習慣にしていた。下の階にはある分野の本を集めた書店があって、なかなかエレベータに乗るにも抵抗があるところだが、エレベータを降りてしまえば別世界が広がる。
　ここには浪花節とかＳＰのコーナーはあってもロックとかJ-POPのコーナーはない。ジャズやポピュラーは前者の年代に近い音楽ということもあって置いてあるのだが、5000円より高い値札が貼ってある盤もなければ、百円台の廉価盤もない。1500～3000円という値幅は手を出しやすいところである。ボーカルコーナーの「その他」に手を出して最初に引き上げたのがこの顔。ああ、やっと会えたね、という感じである・・・。
　聞いた感じ：この録音の10年くらい前、Artie Shaw 時代が一番最高だと思っている私の耳にはビブラートが少しくどく感じる。この録音の半分以上はかつてＣＤで聴いたことがあったものだ。しかしＣＤでは味わえないのが、なんといってもこのジャケットのつややかな顔である。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　