感涙保証、私の愛聴盤 その７１

The Essential Vic Dickenson

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　このジャケットデザインのひどさは忘れて何も言わずに針を落としてみよう。Ａ面１曲目である。ロシアの子守唄。

　いきなり Sir Charles Thompson のピアノイントロでぐいと舞い上がる。Edmond Hall のクラリネットが高めた緊張を Steve Jordan のギターがざくざくとリズムを刻んで引き継ぐ。メトロノームのような正確さで奔放なピアノソロを支える。Vic Dickenson のトロンボーンが出てくるのは２分ほどあとだ。

　ソロイストとしての Dickenson にはあまり期待しないほうがいい。ピアノ以外では Hall のクラリネットが秀逸である。Ruby Braff のトランペットが絡み合う頃からバックに管楽器のリフがつく。しかしギターの存在が薄くなることはない。９分という長さの曲としてはあっけないほどのエンディングがあって、いきなり終わる。

　それでどこがいいのかって？そう、なんとも不思議なんだが、何度も聴き直したくなる心地よさなのではないかな。眺めのいい頂上はないけれども気持ちのいい高原状の台地が広々と続いている、そんな風景を思い描いたらいいだろう。それを作り出しているのがこの演奏では正確なリズムに徹したギターなのである。

　中間派ジャズにありがちな「くつろぎ」や「けだるさ」とは無縁の緊張度の高い１曲を堪能してみよう。

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