感涙保証、私の愛聴盤 その７０

The sound of JAZZ

---

　一瞥して、このそっけないジャケットの映像からは音が聞こえてこなかった。ビッグネームがクレジットされてはいるものの、こういうふうな演奏家の顔が見えないレコードを買うのは勇気がいる。しかも誰が主役かわからないような寄せ集め盤なのだ。買ったのは Mal Waldron が Billie Holliday の伴奏をやってる唯一の盤という紹介が理由だったと思う。

　ＪＡＺＺを映像で楽しむようになったのは Dexter Gordon が好演した映画、「ラウンドミッドナイト」以後で、そのころからＮＨＫのＢＳ等で放送される数少ないムービーを録りまくった時期がある。Swing 時代のバンドシンガーが生き生きとして見え始めたのもこのころだし、Miles や Coltrane などの５０年代のモダンジャズの映像もわずかながら紹介されて貴重な場面に接することができたときである。

　どういう符合かは知らないがこの盤を買ってすぐ、ＢＳで放送された映像の中にこのレコードが録音された状況が映っていた。モノクロフィルムの映像が５０年代の雰囲気を再現する。たばこの煙が漂う実にくつろいだスタジオ風景だった。圧巻は Billie Holliday と、そのバックを務める Lester Young の思わせぶりな目線。Billie の目を追うと、噂だけではなく彼女は心底この男を愛していたのだなというのがわかるのだ。

　ＬＰの解説だけで演奏を聞いてもジャズの歴史の勉強としか思えなかったこの盤だったが、彼らの生身の人間としての姿を見てからは、常に Billie のなまめかしい唇とともに頭の中で映像が動き出すレコードとして記憶に刻み付けられているのである。

---