感涙保証、私の愛聴盤 その６１
Zoot Sims with Henri Renaud・Jon Eardley
これも録音はパリである。ヨーロッパ広しと言えども、なぜかジャズの話題はこのパリにある。この都市が持つ開放感がそうさせるのか、リラックスした中に旅人としての冒険心が感じられるピリッとひきしまった演奏が多い。このレコードにおける旅人は Jon Eardley というトランペッターと Zoot Sims である。
Jon Eardley は西海岸で活躍した人だ。演奏スタイルは Chet Baker によく似て実に粋でクールな音を出す。この録音でもソロをとっているところでは光る存在になっているが、Zoot Sims が現れるや、とたんに霞んでしまうのは仕方が無いところだろうか。
それくらいここでの Zoot Sims のサックスはすばらしい。まず、ひとつ一つの音が温かい。けっして力まずに自然に体から出てくる穏やかな音は人間性そのものを感じさせる。当時まだ３０歳だった彼にこんな音が出せるなんて信じられないのだが、終始、幸せな会話を楽しんでいる気分にさせられる。加えてどこから湧いてくるのか、汲めども尽きぬ夢のごとき旋律の豊富さ。ここに集録された７曲すべてに味わえる飽きが来ないアドリブソロは彼のベストだと思う。
惜しむらくはこのレコードのジャケット。１９５６年製のオリジナルに比べると、この８７年のアメリカでの再発盤は Zoot の追悼盤的性格ゆえか、いかにも重々しいイラストが使われて逆に安っぽく見えてしまうことだ。
