感涙保証、私の愛聴盤 その４５
It's A Blue World/Mel Torme
地味なデザインのジャケットとお思いだろう。しかし波の形が画面に占める割合といい、まさに波が消さんとする足跡といい、計算し尽くされたドラマ性がこの写真にはあると思う。Burt Goldblatt、この時期のベツレヘムレーベルの多くを手がけた名写真家である。共通するのは図案化された構図で、仕上げはすべてモノトーン。このジャケットなどは、彼の作品のなかでも地味な１枚なのだが、私はこの陰影が一番好きだ。
Mel Torme を紹介するのはこれで３回目となる。月のメルトーメと初期のメルトーメである。それも合わせて読んでもらえば彼のことがもう少し分かると思う。これだけ Mel Torme の盤を紹介するからには、よっぽど Torme が好きなのだろう。そしてこのアルバムを Torme の最高傑作として紹介するのは、一番いい時期の声音に加えてこのアルバムの選曲のよさに尽きる。
タイトルどおり、しっとりとしたバラードが多い。バックもストリング入りのオーケストラである。一見、アルバムタイトルとジャケットのデザインから、失恋、孤独、悲しみ、別れなどをテーマにしていて、同じような雰囲気のする Frank Sinatra の Only The Lonely のように重い印象を持たれるかもしれないが、まったく似て非なるアルバムである。こちらの選曲のほうがずっと人生に前向きである。なかでも、そう Polka Dots And Moon Beams という歌は完全なノベルティおのろけソング・・・。しかし何度聴いてもいい曲なのである、これが。ほのぼのとした歌詞がおもしろくて、ちょっと鼻が上向きの娘に聴かせるとたちまち踊りだすかもしれないね・・・。
