感涙保証、私の愛聴盤 その４４
Tony Bennett Sings For Two
これから３回ほど、好きな男性ジャズ歌手のアルバムを紹介しよう。中古レコードあさりの話でも書いたが、トニー・ベネットという歌手は若い頃がだめな歌手である。音程はしっかりしているけれど声に魅力がない。人生経験の浅さがそのまま出てきているのかな・・・。ベネットに限らず、男性歌手はえてしてそういう年輪を重ねて人を引きつける声に変わっていくようだ。それで女性はまったくその逆。１０代後半が最高で、おばちゃん声になるにいたってはどうしようもなくなる。一見、暴論かつ偏見だが、声も一種のフェロモンと思えば私の偏よった見方もうなずけると思う。
さて本場アメリカの男性ジャズ歌手にはイタリア系が目立っている。フランク・シナトラという大御所をはじめ、この間亡くなったペリー・コモという人もそうだし、このトニーもそういう一人で、いかにもイタリア系らしい陽気なエンターテイナーたちである。ジャズ歌手という分類には収まりきれない人たちで、世間一般ではポピュラーシンガーとしての見方が強い。
そういう見方をされるのもベネットには霧のサンフランシスコという６０年代に吹き込まれたヒット曲があるからだ。たしかにいい曲ではあるけれどもベネットの歌の魅力はそれだけにとどまらない。このアルバムはベネットとピアノの Ralph Sharon Trio との共演だが、選曲のよさにまず拍手である。私の好きなバラードが目白押し。なかでも Street Of Dreams と Nobody's Heart Belongs To Me がいい出来である。たまにはビッグバンドをバックにシャウトするベネットにも魅力を感じるが、こんなしっとりしたいい曲を並べられると、もう他のアルバムを引っ張り出す踏ん切りがつかないものである。
