感涙保証、私の愛聴盤 その４１

Some Where Before/Keith Jarrett

Keith Jarrett

　キース・ジャレットといえば、「ケルンコンサート」のような長時間のアドリブソロピアノを思い出される方が多いかもしれない。あるいは後年のスタンダード曲ばかりを取り上げたトリオ演奏の方だろうか。このアルバムはそのいずれにも似ない異色のアルバムである。その理由は、よく知られたキースのピュアな音楽観とはまったく異なるコンセプトで作られたこのアルバムのちぐはぐ感なのである。

　若い頃のライブ録音なのだが、私には一曲目のボブ・ディラン作の My Back Pages だけがすごく光って聴こえてしまう。どうも他の演奏は緊張感がないし、なかには雑音のような類としか思えないものもある。このアルバムが再発されているとしたら、このＡ面１曲の価値ゆえであろう。

　さて久しぶりに針を落としてみよう。ピアノタッチは紛れもなくキースのそれである。とくに My Back Pages で聴かれるフレーズはあのケルンコンサートを彷彿とさせる。このアルバムはケルンコンサートに聴き惚れてキースのアルバムを集め出したころ、小倉駅の裏にある中古レコード屋で見つけたものだ。オリジナル盤が２０００円以下という値段で手に入り、掘出し物としても自慢の一枚なのである。

　話はこのアルバムから離れてしまうが、私がキースのケルンコンサートを聴いていた頃は長男が中学時代。進路の選択の一つにピアニストが具体化してきた頃と重なっている。もちろん彼はクラシックのピアノを勉強していたのだが、ジャズの分類ではやや異色のケルンコンサートには何かしら感銘を受けるものがあったらしく、彼のリクエストで一緒にレコードを聴いたことを覚えている。いま彼は大学の音楽学部を卒業して、なんとかピアノに関係した仕事で食っていこうとしているようだ。音楽で生計をたてることの難しさは分かった上で、なお、好きなピアノを中心とした生活をめざしている彼にエールを送るつもりでこのキースを聴いてみよう・・・。

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