中古レコードはぶっきらぼう(その26)
福岡から転勤していちばん変ったのは通勤環境。トラックに載せられて終焉の場へ 向かう牛か豚のような死んだ目をした人の群れ。1年間は気持ちの張りから耐えられ たが、もういやだ。
人の中に埋まるのは電車の中だけではない。職場の近くの渋谷はひどいところだ。 朝はカラスがゴミをつつく廃墟のごとき街。夜はルーズソックスの集団であふれ、ぶ つかりながら泳ぐ殺気だった雑踏。
それで通勤経路を変えた。時間はかかるが、けやきの並木が目にさわやかで、ゆっ たりとした広い歩道を気持ちよく足を運べるところ。東京にも人の気持ちを落ち着か せるたたずまいがまだあるのだ。
心地好い寒風を受けながら青い空に目を上げたとき、その垂れ幕が目に入った。中 古レコードフェア、○○月××日まで...。おや、きょうまでじゃないか。
たちまち、きょう一日の仕事の段取りが決まってしまった。
アルバム名: Jerri Southern Meets Cole Porter/Jerri Southern Capitol T-1173
Songs I Like By Dick Van Dyke Command RS 33.860
Indiscretion/Patti Page MG 20405購入価格:1200〜1800円 店:ラフォーレ原宿
動機:前述のとおり、勤務時間が終わるのも待てずに会場を目指す。さすがに広い。 しかも、いろんなジャンルがごちゃまぜとなっているから Jazz のレコードを探すのも 骨が折れる。
1枚目は Jerri Southern が見つかった。ほんとは Decca 盤がいいんだけ ど贅沢はいえない。
2枚目の Dick Van Dyke というのはどこかで聞いたような名前。はずれかもしれな いけれど曲目とジャケットの豪華さで買い。
3枚目は Patti Page のエキゾチックな感じの顔が大写しのジャケット。実物と同じ くらいの縮尺だから、やけになまなましい。じっと見つめられて、私を買って...と 催眠術にかけられた。
聞いた感じ:3ヶ月も前の話になるのでまた聞き直したところ。
1枚目の Southern は若い頃の Decca 時代が最高であとの Roulette、Capitol 時代 はやや落ちる、との定評通り。でも、スローテンポで歌う It's All Right With Me は 出色の出来といっておこう。そして、It's Bad For Me のメロディーが軽快だ。
2枚目で驚いたのは、俳優ながらなかなかの歌を聞かせているところ。しかも、ライ ブである。いいと思ったのは、Hoagy Carmichael の Lazybones。なんとなくとぼけた 感じがでて何度も聞き直したくなる良さがある。Gershwin の I've Got A Crush On You を最後に持ってきているのは珍しい。この難曲によほど自信があるのだろう。
3枚目の冒頭は Autumn Leaves 。そして、B面最後は 'tis Autumn である。秋の曲 ばかりを集めていると思ったら大違い。タイトルと同じく、無分別の選曲で記憶に残り 難い1枚となりそうである。