ＲＩＮＣＡＮ　５Ａ−３２

（落札時のオークションの謳い文句）電源を入りません、動作しないのジャンク品です、部品取りなどいかがでしょうか？中古品ですので傷、汚れあります。 　汚いラジオだった。こんなラジオだったら入札するのは僅かだろう、と高をくくっていたら、意外に値がつりあがっていった。２千円限度と考えていたので、対抗者がもうひとがんばりしてきたら、諦めていたと思う。

このラジオに目をつけたのは「映画の中のラジオ」で紹介したからに他ならない。1966年というから昭和41年の東宝製作映画「女の中にいる他人」というあまり知られていない映画なのだが、この映画の至るところでリンカーンというキットメーカーのラジオが見られるのだ。参考までに主演は小林桂樹、共演は新珠三千代。 　この時代の映画はほとんどがカラー作品なのだが、演出上、モノクロで撮られているのが残念。せっかくのきれいなプラスチックボディのラジオがぱっとしない。

固定されていないシャーシがツマミだけで留まっていた。ダイヤル糸も外れて指針は動かない。引っ張り出してみると底ビスが１本転がり落ちた。他に２本のビスが必要なのだが欠品である。また裏蓋を留める化粧ビスはスピーカーのマグネットにくっついた状態で見つかった。 　なぜかスピーカーへいく線がぷっつりと切られている。スピーカーだけでも流用しようと思ったのかもしれない・・・。ばらばらにされなくて良かったと正直思う。

クリックで拡大。 　標準のｍｔ管５球スーパーであるが、トランスの配置がちょっと変わっている。整流管、出力管が並んでいるのはまあいいとしても、６ＡＶ６と６ＡＲ５の間がかなり開いている。当然、信号線はかなり長くなってしまうのだが、ＩＦ信号の被りは大丈夫なのだろうか・・・。

クリックで拡大。 　きれいなカラーのＬ型抵抗が目に付く。プリンスというメーカー名は他のラジオでは見たことがない。キットのラジオなので、配線の引き回し方やハンダ付けなどはやはり素人と思わせる。回路図は見当たらないが、実態配線図はあったと思われる。大メーカーのラジオと違って、いろいろとあら捜しをするのも面白い。意地悪なおっちゃんにとってはいい作品が目の前にあって楽しい・・・。 　回路図が「真空管ラジオのデータベース」で見つかったのでそれを再掲しよう。ただこの回路図には間違いがあって、ＡＶＣコンデンサの容量は０．１μＦが正しい。

このセットでは普通のペーパーコンデンサはほんのわずかでほとんどオイルコンデンサが使われている。画像で見ると黒いパッケージのものがそうだ。カップリングコンデンサのほかにＢ電源のバイパスコンデンサやＡＶＣコンデンサにも使われている。このオイルコンデンサは耐久性がなく絶縁低下は普通のペーパーコンデンサよりもずっと進んでいる。テスターで測るとほとんど200ＫΩ程度を示しているので、カップリングコンデンサにももちろん使えないし、バイパスコンデンサとしてもちょっと危ない。これらはすべて交換する。 　コンデンサを交換して電源を入れてみたがＢ電圧が低い。整流管のカソードで１００Ｖ程度なのでこれは負荷側に何か異常がある証拠。切り離してチェックすると平滑用の電解コンデンサがおかしいようだ。これも絶縁低下で漏れ電流がずいぶんと増えていた。

平滑コンデンサの交換でようやく音が出始めた。高い周波数の感度はまずまずだったが、低いほうの感度ががくんと落ちている。トラッキングの問題かと思って調べていくのだが、原因は局発にあった。低いほうの発振レベルがどんどん落ちていくからである。マイカコンデンサなど周辺部品の不良を疑ったが、結果的には６ＢＥ６の問題だった。こういう現象も珍しい。 　これでほぼ健康的な受信状態になったのであるが、キット製品ならではの配線間違いや首を傾げる箇所がけっこう散見された。箇条書きで記載すると、 　・アンテナ端子からバンド切替スイッチまでの配線にシールド線を使っていた 　・アンテナ同調バリコンと６ＢＥ６のＧ３との間になぜか１００ｐＦのコンデンサが挿入されＡＶＣ電圧が真空管に届いていなかった 　・ＩＦＴの同調周波数がずいぶん高いほうへずれていた 　・ＡＣラインにコンデンサが入っていなかった（ライン間、アース間ともに） 　・６ＡＲ５のプレートから６ＡＶ６へＮＦＢ回路を組んであった 　・ボリウムの中点から６ＡＶ６のグリッドに接続するカップリングコンデンサが1000ｐＦだった

汚れまくっていたキャビネットがようやくきれいになった。黒ずんだ垢の下には鮮やかな水色のボディが眠っていた。 　前面の透明パネルも一旦外して内側に入りこんだ埃も取り除く。これを取り外すにはちょっとした作業が必要・・・。大メーカーのキャビネットではプラスチックの爪が溶着してあるのがほとんどだが、このセットではなんと接着剤が使ってあった。しかしこの接着剤がさほど強力なものでなかったのが救い。 　透明パネルの外側には無数の傷があってこれはなかなか取り切れない・・・。